私家版写真集『flows』について
2021年12月10日、私の父・啓一が亡くなりました。享年65。
本書『flows』は、その葬儀の撮影を写真家・吉江淳さんにお願いしたことをきっかけとして、制作を決定。
アートディレクション・デザインをAFFORDANCEの平野篤史さんへ依頼、私を発行者として制作した文字どおり私家版の写真集です。
非売品・50部のみの制作なのですが、私にとってとても大事な本になったため、このウェブサイトにて、紹介をさせていただきます。
美しい写真は、吉江さんが撮ってくださいました。
2022年4月13日
小金沢智
本書『flows』は、その葬儀の撮影を写真家・吉江淳さんにお願いしたことをきっかけとして、制作を決定。
アートディレクション・デザインをAFFORDANCEの平野篤史さんへ依頼、私を発行者として制作した文字どおり私家版の写真集です。
非売品・50部のみの制作なのですが、私にとってとても大事な本になったため、このウェブサイトにて、紹介をさせていただきます。
美しい写真は、吉江さんが撮ってくださいました。
2022年4月13日
小金沢智
写真集『flows』のこと
「創造」の「創」は「きず」(傷)とも読み、したがって、「創造」とは「傷」から生まれるものだと言った人がいた。この写真集はきわめて個人的な動機から作っているものなので、「創造」という言い方ははばかられるが、本書で主題となっている父の死、その葬儀の記録は、私にとって、「傷」という範囲をおおきく超えたものだった。うまく言葉にすることもできず、そのわからなさに自分なりにこたえるために、この写真集を作る必要があった、とひとまずは言えるのかもしれない。
(中略) 私は、仕事柄、画家が、写真家が、「死」とどう向き合ってきたのか、その「作品」を通して見てきたつもりだった。家族や親しい人の死、その姿を描き、写してきた人たちがいる。 ただ、それがどのような思いによるものであったのか。「作品」「表現」「創造」と、彼らは考えていたのだろうか。もちろん一様であるはずはないのだが、そういう言葉・思考になる以前の、明確な形にならない、やむに止まれぬ切実な感情が根源にあったのではないかと、自分がそのような状況に直面して初めて、考えさせられる。 ともあれ、私の場合、描くことも、写すこともできない。父の元にカメラは持参したが、ベッドに横たわる父を眼前にして、ついに、シャッターを切ることはできなかった。それは、「私の技術では撮ることができない」という思いによるものだ。誰もがスマートフォンで写真を撮ることができる時代に、けれども、私は、父の最期の姿が、「よい写真」として残って欲しいと望んでしまった。それを撮ることができるのは、私ではない。 今回、葬儀の1日の写真をお願いした同じ県内に住む写真家の吉江淳さんは、前職の太田市美術館・図書館の際幾度となく撮影をお願いしており、展覧会の記録から始まって、2021年に私がディレクションを行った開館3周年記念展「HOME/TOWN」展では、吉江さんの土地/町/自然に対する視線が反映された写真作品を多数ご出品いただいていた。葬儀の写真を普段から撮っているということではなく、聞けば吉江さんにとっても初めてのことで、けれどもお願いをしたいと思ったのは、吉江さんの写真とその考えに対する信頼以外になかった。 依頼に際しては、普段、自らの作品制作のほか、仕事で結婚式の記録撮影を行っている吉江さんから、「今あまりこんな事言葉にするもんじゃないのでしょうが、普段結婚式は目の前に主役がいて、在る事が撮れるけれど、ご葬儀は主役の方がいらっしゃらないところで撮るという行為があり、それらは全く違うと感じました。もちろん儀式そのものや残されたご家族を取ることは出来るけれど、それだけで不在の写真が撮れるのかなと思いながら撮影をさせて頂きました」「こう撮ろうということはなく、(もちろん自分の見方や手癖も多分に入ってはいますが)、1日の光景が未知のものとして自分の目の前にあらわれたものを撮ったつもりです」とメッセージをもらっている。「未知のもの」というのは、私にとってもそうで、葬儀から1週間後、吉江さんから送っていただいた378枚の写真から、いま、私は、吉江さんの視線を通し、葬儀の日をあらたに体験するような思いがする。 |
「flows」というタイトルは、「流れ」を意味する英語の名詞「flow」の複数形としてここでは用いている。父の死と、葬儀の日から感じていることは、誰もがいつかは亡くなるという事実と、それに対する向き合い方であるのだが、私は、いまなお、父とどう向き合ってよいのかわからずにいる。父は64年という現代の日本では決して長くない生涯を、どのように生きたのか。何を思い、日々を過ごしていたのか。家族や、私のことをどう思っていたのか。返答はもうないために、いま、そのような思い、感情が、ひとところにとどまらず、流れていくような感覚がある。他方、葬儀の1日を思い出すとき、私は、この世界で、なんであれ、死ぬまでは生きていかなければならないのだと感じている。あらゆることが、とどまることなく流れていく世界であるとしても、そのことを悲観するのでも、楽観するのでもなく、ただそのものとして受け止めながら日々を過ごすこと。
しかし、それがどれだけ難しいことだろう。 写真集の表紙には、山と川を写した写真が使われている。父の故郷である南牧村の風景を、私から頼まれたわけではなく吉江さんが自身のご判断から葬儀の直後訪れ、撮影したものだ。それを、今回、全378枚の写真からのセレクトも含め、写真集のデザイン全般をお願いした平野篤史さんが表紙にすることを提案された。平野さんもまた、太田で深く仕事をご一緒させていただき、その経緯で私からお願いをしたのだったが、過去にデザインをお願いした「HOME/TOWN」展でも「川」が大切なモチーフであり、そこから、私の意図を汲む以上のイメージを作り上げてくださったことが思い出される。あのときの川と、今回の川も、もしかしたらどこかでつながっているのかもしれない。 本書の写真は、父の死、その葬儀の記録を主な動機として依頼したものだが、吉江さんの写真は、不在の父とその周辺の余白へと視線を投げかけ、平野さんのデザインは、それら吉江さんの写真と私の言葉・考えを核としながら、より広がりのあるものとして作り上げられた。本書は、小金沢啓一というひとりの人の死をめぐるものであることには間違いがないが、息子としての私以外に、吉江さんと平野さんというふたりが関わってくださったことで、特定の個人を超えて、いくつもの生の流れを、そこかしこに見出すこともできる写真集になったのではないかと思っている。 亡き父にこの写真集を捧げます。 2022年2月1日 小金沢智 *小金沢智「写真集『flowsのこと』」から一部抜粋 |
概要
書名:flows
著:小金沢智
写真:吉江淳
アートディレクション・デザイン:平野篤史(AFFORDANCE)
発行日:2022年3月24日
印刷・製本:株式会社 八紘美術
制作・発行:小金沢智
限定50部・非売品
著:小金沢智
写真:吉江淳
アートディレクション・デザイン:平野篤史(AFFORDANCE)
発行日:2022年3月24日
印刷・製本:株式会社 八紘美術
制作・発行:小金沢智
限定50部・非売品
仕様
判型:B5
頁数:本文40ページ+B5変形ペラ差し込み
印刷:オフセット印刷
製本:上製本(クロス細布)
表1:ダイセン貼り
表1+背:型押し+箔押し
頁数:本文40ページ+B5変形ペラ差し込み
印刷:オフセット印刷
製本:上製本(クロス細布)
表1:ダイセン貼り
表1+背:型押し+箔押し
自主企画:『flows』を見る/読む
日時:2022年8月19日(金)午後1時~6時、20日(土)午後1時~5時
会場:iwao gallery(〒111-0051 東京都台東区蔵前2丁目 1−27 2F) iwaogallery.jp/
詳細▶︎
日時:2022年8月19日(金)午後1時~6時、20日(土)午後1時~5時
会場:iwao gallery(〒111-0051 東京都台東区蔵前2丁目 1−27 2F) iwaogallery.jp/
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