KOGANEZAWA SATOSHI
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4/29/2020

 
私の場合、初めての土地ですること言えば「食べること」と「読むこと」だ。地の食べもの、地の読みもの。3月下旬、いずれも、山形に引っ越して当初はできたものの、今はCOVID-19の「自粛」によってなかなか「外食」「外出」できない状況があり、これはなかなか、これから土地に入っていこうとする立場からすると、難しいものがある。「食べること」そして「読むこと」も、あるいはただ単純に人と「喋ること」。私はまだ、心情的に憚られて、アパートの隣人家族にも引っ越しの挨拶ができてない。悲しいことで、大学の学生たちとは言うまでもない。

とはいえ一人暮らしの私は「自宅待機」ばかりしていては、生活も生命も成り立たない。今日は、山形市内の比較的大きなある書店の一角に、同じく市内の古書店が本を置いているということをSNSで知って、買ったばかりの車を走らせ訪れた。一人でありながら車内でもマスクをしつつ、それが適切であるかどうかもわからないまま。

入ってみると、ワンフロアの開かれた空間の中に本がずらりと並んでいるその気持ちよさを感じる。新刊で欲しい本(村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』)もあったし、山形に関わるものの棚もあったし(『東北学』については多数バックナンバーがあり、改めて訪れたい)、そして期待していた古書店ブースは、想像していたより沢山の古書が複数の棚に並んでいて惹きつけられた。

それこそ「地の読みもの」というか、一般的には「郷土史」と呼ばれるものか。その集積がそこにあった。ガチッとした立派な箱に入ったものも多く、地名が書かれたものはそれがどこか、まだまだ知らないところが多い。けれどもそうやって、行政でも民間・在野の研究者でも、いろいろなことが語られている、ということがその集積からわかる、ということの気持ちよさがある。「古書店は趣味的要素が多い」と、東京都がCOVID-19による休業要請をしたことが思い出されるが、そこにより強く「歴史」の蓄積がある、ということは、我々の生命の前史と関係があるということであって、改めてその意義を言う必要があるのだと、こういう場所に来ると思う。よかった。それらを無視することは、生命の連鎖を断ち切ろうとすることなのではなかったか。

何冊かの本を買って、そのうちに、「十才の詩集」と帯に書かれたものがあった。その通り、当時十才の著者「岩田有史」が書いたものだという。『父の口ぶえ』というタイトルで、1951年に出版され、作家の草野心平が編者である。これがとてもいい。詩というものが、誰が書いたとか関係なく響く。それは絵というものが、誰が描いたとか関係なく響く。そういう経験と似ている。でもそう考えるまでには、それなりの時間があった、とも思う。みずみずしく、美しい。

69年前に10才だった岩田有史さんが今どうしているか知らないまま、一篇だけ、素敵な詩を引用させてください。

---

星

このくらい空の上にも
世界があって
その世界から
光がもれてきたのが
星でないのか

岩田有史『父の口ぶえ』小山書店、1951年、p.18


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