KOGANEZAWA SATOSHI
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4/30/2020

 
「学生たちへのメッセージを映像にして送ろう」ということに私が職場で所属する日本画コースとしてなって、4月27日(月)に専任教員3人、副手2人で映像を撮った。在宅の専任教員2人は、zoomで自撮りした映像を送ってもらい、それらを結合するというもの。その編集を私が任されたのだが、教室や自宅で撮られた映像だけを組み合わせても、面白みに欠ける。私たちは映像で人を楽しませることができるプロフェッショナルでは残念ながらないし、学内では三密を避けるためマスクをしながらの撮影は、表情がほとんどわからない。パフォーマティブな面白い動きをする、などのことも私にはできない。これは性格の問題。

だから、本来大学に来ていれば見ることができる風景を撮って、メッセージの前後に付け加えることにした。日本列島の北方である山形でも、この時期になるとさすがに桜も散りつつあるが、大学のほとんど正面に一本、ちょうど今が見所ではないかという桜が一本立っている。こんなことにならなければ(という言葉をもう何度使ったかわからない)、その木の下で花見でもしたい。いや、学内であるからもちろん飲酒はできないのだが、美しく咲く桜の木下で弁当でも持ち寄ってブルーシート敷いてランチでもしたい、そう思わせる立派な桜だ。

朝早く、7時半頃から8時前後に学内各所を撮りに行ったから、例えこんなことにならなくても、学生のいる時間ではないが、しかし学生のいない時間が積み重なってしまった大学の静けさというものがある気がした。けれども桜は咲いているし、名前はわからないが春らしい黄や緑の花々、植物が色づいている。鳥は鳴いている。人はいないけれど、当たり前にそれでも時間は流れていて、素人なりにそういう「今」をiPhoneで撮影する。この光景は、誰もが見ることができるものではないが、それぞれの立場で今見ることができる光景をただ見ようということだ。伊藤若冲は一日中鶏を観察していたという。

ところで、「ジャンゴ」という名前の猫が大学の敷地内に住み着いているのを知ったのは、何年前だったろう。全体的に茶色く、顔の正面は墨でも塗られたみたいに黒っぽい。映像に是非登場願いたく、いつものところにいるだろうかと行ってみるとそこにいた。普段であれば賑やかな学内で学生たちにも可愛がられながら日々を過ごしているジャンゴは、この静かな状況をどう思っているのだろうか。ちょっと寂しそうな表情を見せていたような気がしなくもないが、それは私のそうであって欲しいという傲慢な想像かもしれない。なんであれ私は猫の気持ちを知ることはできないが、元気でいて欲しい。今日会ったかぎりは元気そうだったので、気にしていた学生がもしいたら、ジャンゴは大丈夫そうだとここから伝えたい。

今日は、ハンドルロックや、バッテリーが上がる?など初めての車のトラブルが早速あり(入ったばかりの自動車保険のお世話に早くもなった)、かなり慌てたのだけれど、朝の時間のことを思い出すと、落ち込む気持ちがいい感じに少しだけ上向く。こんなことにならなければ、もてなかったと思う時間のなかに、そういういい感じの時間もあるのだ。

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4/29/2020

 
私の場合、初めての土地ですること言えば「食べること」と「読むこと」だ。地の食べもの、地の読みもの。3月下旬、いずれも、山形に引っ越して当初はできたものの、今はCOVID-19の「自粛」によってなかなか「外食」「外出」できない状況があり、これはなかなか、これから土地に入っていこうとする立場からすると、難しいものがある。「食べること」そして「読むこと」も、あるいはただ単純に人と「喋ること」。私はまだ、心情的に憚られて、アパートの隣人家族にも引っ越しの挨拶ができてない。悲しいことで、大学の学生たちとは言うまでもない。

とはいえ一人暮らしの私は「自宅待機」ばかりしていては、生活も生命も成り立たない。今日は、山形市内の比較的大きなある書店の一角に、同じく市内の古書店が本を置いているということをSNSで知って、買ったばかりの車を走らせ訪れた。一人でありながら車内でもマスクをしつつ、それが適切であるかどうかもわからないまま。

入ってみると、ワンフロアの開かれた空間の中に本がずらりと並んでいるその気持ちよさを感じる。新刊で欲しい本(村上春樹『猫を棄てる 父親について語るとき』)もあったし、山形に関わるものの棚もあったし(『東北学』については多数バックナンバーがあり、改めて訪れたい)、そして期待していた古書店ブースは、想像していたより沢山の古書が複数の棚に並んでいて惹きつけられた。

それこそ「地の読みもの」というか、一般的には「郷土史」と呼ばれるものか。その集積がそこにあった。ガチッとした立派な箱に入ったものも多く、地名が書かれたものはそれがどこか、まだまだ知らないところが多い。けれどもそうやって、行政でも民間・在野の研究者でも、いろいろなことが語られている、ということがその集積からわかる、ということの気持ちよさがある。「古書店は趣味的要素が多い」と、東京都がCOVID-19による休業要請をしたことが思い出されるが、そこにより強く「歴史」の蓄積がある、ということは、我々の生命の前史と関係があるということであって、改めてその意義を言う必要があるのだと、こういう場所に来ると思う。よかった。それらを無視することは、生命の連鎖を断ち切ろうとすることなのではなかったか。

何冊かの本を買って、そのうちに、「十才の詩集」と帯に書かれたものがあった。その通り、当時十才の著者「岩田有史」が書いたものだという。『父の口ぶえ』というタイトルで、1951年に出版され、作家の草野心平が編者である。これがとてもいい。詩というものが、誰が書いたとか関係なく響く。それは絵というものが、誰が描いたとか関係なく響く。そういう経験と似ている。でもそう考えるまでには、それなりの時間があった、とも思う。みずみずしく、美しい。

69年前に10才だった岩田有史さんが今どうしているか知らないまま、一篇だけ、素敵な詩を引用させてください。

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星

このくらい空の上にも
世界があって
その世界から
光がもれてきたのが
星でないのか

岩田有史『父の口ぶえ』小山書店、1951年、p.18

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4/28/2020

 
車を買った。まさか自分が車を買う日が来るとは思わなかった。生まれ育ったのは、成人ひとり一台所有していてもおかしくない土地だったが、私はその土地を大学進学のため19歳の頃出て以来、10数年、東京及びその近郊を住居としていた。免許は持っていたが、それは仕事上仕方がなくとったもので、自分の車を手に入れるということは考えられなかった。それは、都心部の公共交通機関の充実が前提だったことは言うまでもないが、購入し、維持するほどの給与を私は得ていなかった。

2020年3月下旬、仕事を変え、埼玉から山形に引っ越した。すると、多くの人たちから「車はどうするのか」と尋ねられた。ここ10年ほど、山形には毎年のように来ていたから、この土地での生活が、控えめに言っても車なしに成り立たせることは難しいことは知っていた。けれども車を所有することの関心のなさは、車そのものへの無関心でもあったため、メーカーや車種など知っているわけがない。車に詳しい友人の何人かに話を聞きながら、中古車をネットで熱心に見つめる日が続き、結局注文したのは山形に引っ越してきてからだった。

それから約一月が経って納車されたのは、「僕たちの、どこでもドア」をキャッチコピーにする中古車である。1990年代半ばから2000年まで生産された車だといい、当時のCMにはドラえもんが起用されていたというが私の記憶にはない。10代半ばの私は、生まれ育ったこの土地に自分が生涯暮らすとは夢にも思っていなかった。車の必要のない、しかしなんでもある東京での暮らし。思い描いていたのは、漠然としたそういうものだった。のち、大学に入って志した「美術」「芸術」というフィールドも、日本であれば東京だと信じて疑っていなかった。

ともあれその思いは、2011年の東日本大震災を契機にして私の中で大きく変わっていき、思いがけず転職のタイミングと重なった世界規模のCOVID-19による社会構造の変質は、いっそう、それまで信じていた価値について考えさせられた。

他県ナンバーの車に対する嫌がらせがあると聞く。車はその車種に限らず、まさしく「僕たちの、どこでもドア」然として、わたし(たち)をここではないどこかへ運んでくれるものとしてあるが、「来てくれるな」という声が可視化されている。これだけ移動のインフラが整った社会でありながら、わたし(たち)は今、見えないウィルスと、見えるようになってしまった敵意にさらされ、どこにも行くことができないような状況が生まれている。

いつか本当に「どこでもドア」ができたとして、ドアの向こうの先にいる人が、やってきた人をその出自に関わらず受け入れる未来であって欲しい。そのためにはわたし(たち)が今からその「おかしさ」について考えなければならない。

    koganezawa satoshi

    ・日々のこと
    ・「山形日記」(2020/4/28-)

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