KOGANEZAWA SATOSHI
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8/29/2014

 
「美術史の勉強の仕方がわかりません」ということを美大の学生と話しているとしばしば聞くので、自分は学生時代のときどう勉強していたかということを書いてみたいと思います。

私は、ある作家のことを知りたいと思い、その作家のことを勉強していくうちに、次第に勉強の範囲がその作家以外に広がっていったというケースが多いです。つまり、卒論で書いた河鍋暁斎を例にすると、まずその伝記や評論を読み進めることで、彼だけではなく彼が師事していた歌川国芳や狩野派についても勉強することになり、彼が生きていた幕末から明治という時代と社会における美術の諸制度についても勉強することになり、同時代の作家や事象、事項についても勉強することになり、そしてその中でさらに関心が生まれた諸々についても勉強をすることになり…、といったもので、延々とこういうことを繰り返していくと、最初はひとりの作家を出発点にしていたものが、どんどん広がっていき、自分なりの「美術史」が形作られていきます。

美術史を勉強していく上での大事なことは、まずそうやって自分の考えの基盤となる時代を作ることだと思います。それは決して現代である必要はありません。たとえばこうしてひとりの作家を出発点にしてある時代を深く知ることで、それを比較対象として別の時代や地域のことも考えることができるようになります。河鍋暁斎は、時代としては幕末・明治の19世紀、地域としては日本の東京が活動のベースですが、その暁斎のことを軸にすることで、たとえば日本の京都の同時代の作家や事象を考えることもできますし、あるいは当時のヨーロッパの美術がどういうものだったのか考えることもできます。

日本美術史や西洋美術史の通史を読んでもあまり頭に入ってこないとか、飽きてしまうということがあるとしたら、それは、自分が美術史を勉強していく上でのそもそものベースができてないからではないでしょうか。そのベースを作るもののひとつが通史であることはもちろんなのですが、しかし、自分が好きな作家を出発点にして、そこから広げていくことができれば、勉強の仕方としても楽しいし、ストレスなく続けることができるのではないでしょうか。
もちろんそれだけ時間はかかりますが、その分自分の血となり肉となります。美術史全般に興味をもてないという人でも、好きな作家が誰もいないということは、さすがにないでしょう。好きな作家や気になる作家を出発点にして、その勉強を通じてその作家の美術史上の位置を知ることで、美術史全体にまで自分の関心を拡げていく。

このとき、自覚的に出発点の円周を拡げていくことが大事なことです。好きな作家のことを知ってよかった!で終わってしまうと、それは深いかもしれませんが狭く、少なくとも美術史の広大さには達していないと考えられます。円周を拡げていくということは、しようとすると際限なくできるのでキリがないのですが、拡げていくことで、自分がしようとしている研究(これは作品制作でも美術史研究でも同様だと思います)がクリアになるのは間違いないと思うので、「美術史の勉強の仕方がわからなくて困っています」という人は、それが自分がこれから続けていく研究の基盤を作るんだという気持ちで、こういう勉強の仕方を試してみてはどうでしょうか。そして、あわせて、美術館やギャラリーの展示を見るということが、もちろんとても大事です。

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8/27/2014

 
毎年恒例になっている職場のワークショップを終えると、雨がしとしとと降り、暑がりなのに長袖を着るほどに冷え、夏が終わり秋が来たのかなぁと思う、今日はそういう日でした。

毎年8月に実施している職場のワークショップは、限定しているわけではないものの、季節柄子どもの参加がとても多く、私にとっては、一年間の中で最も子どもと触れ合うことが多い季節です。私はこのワークショップを担当することになってから、同世代の作家に講師をお願いしてきました。奥村雄樹さん(2011年)、高橋大輔さん(2012年)、井上光太郎さん(2013年)、サイトウケイスケさん(2014年)。画家が半世紀を過ごしたアトリエ兼住居跡に建つその美術館で、子どもにかぎらない参加者の方々に、若い作家たちによる「絵を描くこと」の新しい提案と体験を持ち帰ってもらえれば…、そう私としては思いながらのプログラムで、私は今年も沢山の真剣なまなざしを見ることができました。

そういうとき、ふと、「美術は生きることに関係がない」としばしば聞く言葉が、確かに人によっては正しいのかもしれないものの、人によってはまったく正しくないということを思います。美術を作ること/見ることは確かに、生きるために必要な、食事による栄養摂取とは意味合いが大きく異なるかもしれません。しかし、誰に頼まれるでもなく、こういう機会にただただ描く(作る)ことをしている人たちと場を共有すると、「美術はこれほど生きることと関係がある」と思います。そこには確かなほとばしる熱量がある。もし美術がなかったら(「美術」の定義が茫漠としてひろすぎるにしても)、食べるという行為をしない以上に、死や、それに近い状況に至ってしまう人たちが、沢山いるのではないか。「いるのではないか」ではなくて、「いるに決まっている」と思うのは、どちらかというと自分がそちら側の人間だからだと思いますが、とにかく、美術は生きることととても関係がある。関係の仕方や深度はさまざまであって当然なのですが、私はつくづく、美術にたずさわる人は、「美術は生きることに関係がない」なんて間違っても言わないで、むしろ「美術は生きることとこんなにも関係がある」と、声を大にして言った方がいいのではないかと思うのです。言わなくても行動で見せるということが大事なのかもしれませんが、たまには言ってもいいんじゃないのと、そう思います。

友人が最近、小澤征爾・村上春樹『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(新潮文庫、2014年7月)という本を贈ってくれました。内容はタイトルにきわめて簡潔にこめられていて、といっても私はまだ、冒頭の「始めに―小澤征爾さんと過ごした午後のひととき」しか読めていないのですが、そこで村上春樹氏は、病気療養中の小澤征爾氏が2010年12月にニューヨークのカーネギー・ホールで行った復活コンサートをのちに録音で聴いたことを述懐して、こういうことを書いています。「録音で聴くかぎりまことに見事な、入魂の」演奏であったものの、その後の肉体的消耗もすさまじい、ではなぜそうまでしてそれを行うのかという問いを立てての文章です。

「なぜなら小澤さんにとっては音楽こそが、人生を歩み続けるための不可欠な燃料なのだから。極端な言い方をすれば、ナマの音楽を定期的に体内に注入してあげないことには、この人はそもそも生命を持続していけないのだ。自分の手で音楽を紡ぎ出し、それを生き生きと脈打たせること、それを人々の前に「ほら」と差し出すこと、そのような営みを通して―おそらくはそのような営みを通してのみ―この人は自分が生きているという本物の実感を得ているのだ」(p.27)

文中の「音楽」を「美術」に置き換えてみましょう、などと安いことを言いたいわけではありません。音楽であろうとも美術であろうとも、対象がなんであれ、なにかに夢中になるということは、言うまでもなくその人が有名であるかどうかを問わず、生きることとこれほどまでに密な関係を築いているということ。食べることとは別の次元で、それがその人を生かしているということ。だから私は本を読みながら、先週のワークショップで同じ時間を過ごした、夢中になって絵を描く人たちを思い出していました。

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8/21/2014

 
まだ8月上旬くらいの気持ちでいるのですが、8月の終わりも目前で気持ちがついていけません…。

思えば昨年の8月は「中之条ビエンナーレ」にグループ・イマジンで参加したため、その準備をしていました。十二みますという2階建ての元民宿を会場に、「中之条の町に星の家を作る」というプランを立て、「星」をモチーフにした作品で構成しました。

そのとき2階で行ったのが、365日天文についてのエッセイをつづった天文民俗学者・野尻抱影(1885-1977)の著作『星三百六十五夜』(1955年)から着想を得た作品を12名の作家が制作し(それぞれの作家が誕生日の日の『星三百六十五夜』の文章からイメージして作品を作る)、それに対して私が文章を書くというものです。その文章とは、研究でも批評でもない、とても短い物語のようなもの。それを12名12作品分書き、会場に作品とともに展示しました。

あれから1年が経ちますが、思いがけずこの試みがかたちを変えて今も続いています。

ひとつは、中之条ビエンナーレに同じくイマジンとして参加した多田さかやさんとの「星の船」。これは「中之条の町に星の家を作る」のスピンオフというか、「そのさらに続き」の物語を、多田さんの絵と、私の言葉で紡いでいこうというものです。毎月1日に私の文章を、毎月15日に多田さんの絵をwebでアップしています。事前に打ち合わせをすることなく、文章から絵を、絵から文章を、ただただ続けていくその先がどこに着地するのかわかりませんが、これからも継続していきたい試みです。

星の船
http://hoshinofune.tumblr.com/

もうひとつは、この「星の船」がきっかけで、多田さんが在籍する東北芸術工科大学准教授の三瀬夏之介さんから誘っていただき、宮城県のリアス・アーク美術館で開催される開館20周年記念展「震災と表現→BOX ART〜共有するためのメタファー展」に参加することになりました。この展覧会は、BOX ARTという形式で、震災をメタファーで表現するというものです。ここでは、私が新たに書いた物語を、三瀬さんと多田さんのふたりがBOX ARTという形式で表現してくださいます。どのようなものになるのか、私は制作の現場に立ち会えていないのでわかりませんが、とても楽しみです。9月17日(水)から11月3日(月)まで開催されます。

リアス・アーク美術館
http://www.riasark.com/

去年の夏、正直に言うとおそるおそるはじめたことが、こうして続けることで別の新しいなにかを生み出そうとしているということが嬉しいです。「星の船」とリアス・アーク美術館での展示、ぜひ、機会がありましたらご覧下さい。

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8/17/2014

 
8月16日、17日と、群馬県前橋市の実家に帰省。その行き帰りに、群馬県立近代美術館の「1974 第1部 1974年に生まれて」、アーツ前橋の「プレイヤーズ 遊びからはじまるアート展」、埼玉県立近代美術館の「戦後日本住宅伝説ー挑発する家・内省する家」展を見ました。14日の愛知県、15日の長野県とあわせて、はからずも4日間訪れたところがすべて公立美術館だったので、開館年や建築・設計などを調べて、開館順に並び替えてみました。

・諏訪市美術館/1956年開館
・群馬県立近代美術館/1974年開館(建築=磯崎新)
・埼玉県立近代美術館/1982年開館(建築=黒川紀章)
・名古屋市美術館/1988年開館(建築=黒川紀章)

・愛知県美術館/1992年開館(前身の愛知県文化会館美術館は1955年開館)
・一宮市三岸節子記念美術館/1998年開館(旧称=尾西市三岸節子記念美術館。市町村合併により改称)
・茅野市美術館/2005年開館(建築=古谷誠章+NASCA+茅野市設計事務所協会)
・アーツ前橋/2013年開館(建築=水谷俊博)

開館年で60年の幅がありますが、1970年代から1990年代にかけてできたところが大半です。この中では開館が最も古い諏訪市美術館は、ホームページによると、「明治後期から諏訪地方で発展した製糸業の中心的存在、片倉財閥により欧米の健康福祉施設を参考に地域住民のための福利厚生施設として、1928(昭和3)年に「片倉館」が造られました。その後付属施設として「懐古館」が併設され、美術品や蚕糸関係の展示が行われました」、「1950(昭和25)年、懐古館は諏訪市に寄贈され、1956(昭和31)年「諏訪市美術館」として開館しました」とのこと。

美術館の建築を一から作るのではないという点では、アーツ前橋も同様です。アーツ前橋の前身は旧西武デパートWALK館で、その地下1階から地上2階までをコンバージョンし、2013年10月26日にオープン。今回はじめて訪れたのですが、展示空間として使われている地上1階と地下1階が一部吹き抜けになった、面白い構造でした。

ところでアーツ前橋の「プレイヤーズ 遊びからはじまるアート展」を見ていて驚いたのは、KOSUGE1-16が前橋市出身の画家・近藤嘉男(1915-1979)の《作品A》(1948年、アーツ前橋蔵)、《制作期》(群馬県立近代美術館蔵)をモチーフにしてインスタレーションを制作していたのですが(テーマは後述)、近藤の資料として展示されていたスクラップブックに、私が職場で調査・研究をしている宮本三郎の批評文が貼ってあったことです。『アトリエ』271号(1949年)に「近藤嘉男君」という文書を書いている。それによると、近藤嘉男は戦前は二科会、戦地から帰還しての戦後は二紀会で発表をしていたとのこと。宮本三郎は二紀会の創設者のひとりです。

そして、今回KOSUGE1-16が先の2作品をモチーフにしてテーマとしたのは、近藤嘉男が戦後前橋市内に作った子供絵画教室「ラ・ボンヌ」ですが、この「ラ・ボンヌ」の開設を近藤に委嘱したのが、ほかでもない宮本三郎だったようです。『近藤嘉男画集』(上毛新聞社出版局、1989年)によると、年譜の1949年に「二紀会理事長宮本三郎先生の委嘱により前橋市において及びラ・ボンヌを開設」とあります。

歴史を振り返れば、宮本三郎が近藤嘉男に「ラ・ボンヌ」開設を頼まなければ、今回のKOSUGE1-16による作品もなかったはずで、そもそも前橋市の美術がまた違うものになっていたのかもしれない…と考えると、歴史の面白さを感じます。ひとの交流、作品と時間の積み重ねが歴史を作り、現在を更新し続けている。「ラ・ボンヌ」は現在国登録有形文化財建築物に指定され、現在は広瀬川美術館として公開されています。今度行こう。

広瀬川美術館
http://www31.ocn.ne.jp/~hirosegawa/index.html

※ホームページの「美術館の歴史」を読むと、「ラ・ボンヌ」の開館年が『近藤嘉男画集』と違うのと、「二紀会洋画研究所」については触れられていないので、改めてしっかり調べてみたいです。
個人アトリエをそう呼んだということなのかな。

4

8/15/2014

 
「3」の続き(タイトルを考えるのが苦手なので、ブログタイトルはただの通し番号にします)。


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8/15は、茅野市美術館から。「生誕100年 矢﨑博信展 幻想の彼方へ」が開催されていて、これがとても素晴らしい展覧会でした。「L’anima (アニマ)」、「動向」など、日本のシュルレアリスムを標榜したグループの創設に関わった作家であったため、そういった文脈でしばしば語られる作家ですが、私にはそういった作品よりもむしろ、故郷である茅野の風景や街並を描いた作品により惹かれました。たとえば、巻物的な墨絵《山間諸景》(1940年)があります。そのなかに着物を着た男性が描かれていて、近くにはこんな言葉が添えられています。

石ころの表情
石ころの心
ゆかた着て石ころどもと語りけり

矢﨑博信(1914-1944)は29才で戦死しているので、この26歳の頃の作品は晩年と言ってもいいのかもしれませんが、それでこの境地。どういった思考からこういった作品に至ったのだろうと想像は尽きません。油彩画約70点に加え、多数のスケッチやデッサン、関係資料が展示された、決定版のような展覧会でした。作品図版だけではなく論考や資料も充実の図録も作成されています。

茅野市美術館は今回初めて行ったのですが、茅野駅と隣接していて、図書館やホール、スタジオの機能もある複合施設でした。茅野市民館の中に、美術館が入っているといった方が適切なのかもしれません。電車が1時間に1本というとき、ここに来て図書館で本を読んだり、美術館で絵を見ることができる。いいなぁ…。

茅野市民館/茅野市美術館
http://www.chinoshiminkan.jp/

茅野市美術館の後は、電車で松本方面へ一駅、上諏訪駅にある諏訪市美術館へ。「諏訪-この土地と人へのまなざし-」が開催されています。岡本太郎、東原徹、小林紀晴、高木こずえ、平林孝央という5人の作家の作品から、諏訪という土地の風土や特質を浮かび上がらせるような試みの展覧会です。

たとえば、岡本太郎は諏訪で数えで7年毎に開催されている奇祭・御柱祭を愛し、何度も諏訪を訪れた作家でした。御柱祭は、切り落とした木に氏子が乗って坂を下るというそれこそ命がけの「木落し」という行事がありますが、岡本太郎は自分もそれをやりたいときかなかった。「死んで何が悪い。祭だろ」という言葉が残っていますが、それだけ自分もやりたかった。結局できなかったのですが、展覧会では、死後、養女の岡本敏子が岡本太郎の写真を氏子に託したというエピソードも、岡本が祭で着ていた法被とともに紹介されています。もちろん作品(絵画、写真)も。岡本太郎と諏訪と言えば、諏訪大社春宮の隣の万治の石仏もありますが、岡本太郎もここを歩いたのだなぁと思いながら町を歩くのは、とても楽しいことです。

展覧会では、作家のジャンルも世代も異なりながら、にもかかわらず浮かび上がってくるような諏訪の気配のようなものがあって、それが、私のように諏訪をよく知っているわけではない立場から見ても、面白かったです。公立美術館として、こういったかたちで土地の美術を紹介することはとても大事なことで、しかも本展はその多くを現在活動している作家で構成していて(物故作家は岡本太郎と
東原徹)、もし可能であれば、今後も作家を変えるなどして定期的に見てみたいと思う意欲的な展覧会でした。



諏訪市美術館
http://www.city.suwa.lg.jp/scmart/index.htm

偶然にも諏訪はこの日花火大会で(毎年8/15に開催のようです)、諏訪市美術館から歩いてすぐの諏訪湖周辺は沢山の露店と、花火を待ちわびる沢山の人! 残念ながら帰れないといけなかったので花火は見れずじまいでしたが、露店でイカの丸焼きとコンビニでビールを買って、お祭り気分を少し味わいました。諏訪、展覧会だけではなくて、花火のときや、御柱祭のときに、また来たいと思います。
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