KOGANEZAWA SATOSHI
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8/27/2014

 
毎年恒例になっている職場のワークショップを終えると、雨がしとしとと降り、暑がりなのに長袖を着るほどに冷え、夏が終わり秋が来たのかなぁと思う、今日はそういう日でした。

毎年8月に実施している職場のワークショップは、限定しているわけではないものの、季節柄子どもの参加がとても多く、私にとっては、一年間の中で最も子どもと触れ合うことが多い季節です。私はこのワークショップを担当することになってから、同世代の作家に講師をお願いしてきました。奥村雄樹さん(2011年)、高橋大輔さん(2012年)、井上光太郎さん(2013年)、サイトウケイスケさん(2014年)。画家が半世紀を過ごしたアトリエ兼住居跡に建つその美術館で、子どもにかぎらない参加者の方々に、若い作家たちによる「絵を描くこと」の新しい提案と体験を持ち帰ってもらえれば…、そう私としては思いながらのプログラムで、私は今年も沢山の真剣なまなざしを見ることができました。

そういうとき、ふと、「美術は生きることに関係がない」としばしば聞く言葉が、確かに人によっては正しいのかもしれないものの、人によってはまったく正しくないということを思います。美術を作ること/見ることは確かに、生きるために必要な、食事による栄養摂取とは意味合いが大きく異なるかもしれません。しかし、誰に頼まれるでもなく、こういう機会にただただ描く(作る)ことをしている人たちと場を共有すると、「美術はこれほど生きることと関係がある」と思います。そこには確かなほとばしる熱量がある。もし美術がなかったら(「美術」の定義が茫漠としてひろすぎるにしても)、食べるという行為をしない以上に、死や、それに近い状況に至ってしまう人たちが、沢山いるのではないか。「いるのではないか」ではなくて、「いるに決まっている」と思うのは、どちらかというと自分がそちら側の人間だからだと思いますが、とにかく、美術は生きることととても関係がある。関係の仕方や深度はさまざまであって当然なのですが、私はつくづく、美術にたずさわる人は、「美術は生きることに関係がない」なんて間違っても言わないで、むしろ「美術は生きることとこんなにも関係がある」と、声を大にして言った方がいいのではないかと思うのです。言わなくても行動で見せるということが大事なのかもしれませんが、たまには言ってもいいんじゃないのと、そう思います。

友人が最近、小澤征爾・村上春樹『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(新潮文庫、2014年7月)という本を贈ってくれました。内容はタイトルにきわめて簡潔にこめられていて、といっても私はまだ、冒頭の「始めに―小澤征爾さんと過ごした午後のひととき」しか読めていないのですが、そこで村上春樹氏は、病気療養中の小澤征爾氏が2010年12月にニューヨークのカーネギー・ホールで行った復活コンサートをのちに録音で聴いたことを述懐して、こういうことを書いています。「録音で聴くかぎりまことに見事な、入魂の」演奏であったものの、その後の肉体的消耗もすさまじい、ではなぜそうまでしてそれを行うのかという問いを立てての文章です。

「なぜなら小澤さんにとっては音楽こそが、人生を歩み続けるための不可欠な燃料なのだから。極端な言い方をすれば、ナマの音楽を定期的に体内に注入してあげないことには、この人はそもそも生命を持続していけないのだ。自分の手で音楽を紡ぎ出し、それを生き生きと脈打たせること、それを人々の前に「ほら」と差し出すこと、そのような営みを通して―おそらくはそのような営みを通してのみ―この人は自分が生きているという本物の実感を得ているのだ」(p.27)

文中の「音楽」を「美術」に置き換えてみましょう、などと安いことを言いたいわけではありません。音楽であろうとも美術であろうとも、対象がなんであれ、なにかに夢中になるということは、言うまでもなくその人が有名であるかどうかを問わず、生きることとこれほどまでに密な関係を築いているということ。食べることとは別の次元で、それがその人を生かしているということ。だから私は本を読みながら、先週のワークショップで同じ時間を過ごした、夢中になって絵を描く人たちを思い出していました。


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